フリッツ・ザクスル『シンボルの遺産』
- 作者: フリッツ・ザクスル,松枝到
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2005/02/09
- メディア: 文庫
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すっかりヴァールブルク関連になってるけど。
心象 imagery の歴史を目指した作品。
後半のミトラス教に関する論考や、ヴァールブルクについての講演等は、まあ、それほどでもなかったが、個人的に前半5章は興味深く読めた。
I イメージと死と再生
II 石棺のアルケオロジー
III 中世の宇宙観
IV カピトリウム―ローマのシンボリズム―
V トロイ物語―宮廷風恋愛物語のイコノグラフィー―
特に IV のカピトリウムは、「へー」を連発して読んでました。
いや、単にワタクシが無知なだけで、イタリア史や美術史的には当然のことなんだとは思いますが。
カピトリウム=長く異教の聖地として異教の心臓部で、かつ帝国の呪術の中心地だったとか。
だからラテラノ大聖堂、サン・ピエトロ大聖堂、サン・パオロ大聖堂がカピトリウムからできるだけ離れた場所にあったことは象徴的だとか。
カピトリウムの真の復興はミケランジェロだとか。
1341年に、ペトラルカが桂冠詩人としての戴冠式がカピトリウムだったとか。
なかでも、1347年、コーラ・ディ・リエンツォの「革命」がカピトリウムを中心に行われたことの意義とか。
リエンツォは、門外漢なので、一応名前だけ知ってましたが、カピトリウムと結びつくことで、俄然面白いネタだったのかと再認識。
そしてムッソリーニとカピトリウム。
実に面白い。
あと、V は、なぜイタリアで叙事詩が生み出されなかったのかという「謎」は、自分も思っていたことなので、どう説明できるかの気になってます。
また、1250年を境にして、非常に多くの挿絵写本が増加したという指摘があるけど、これはどうも恋愛物語限定では無い模様で、それはそれで興味深い。
やはり1250年は1、13世紀の諸々な意味において、一つの指標になる数字だなと。
やっぱりロベール・ダンジューのナポリは面白そう。
誰かやってくれませんかね。
しかし、本文もさることながら、実は解説も面白い。
ヴァールブルクとザクスルの出会いから、ザクスルの実務的活動、そしてヴァールブルク文庫最大の「イヴェント」である、ナチス支配下におけるハンブルクからロンドンへの脱出計画。
ヒトラーが政権についてからの、ザクスルの行動の早さは見事です。
ゲッペルスが研究所移転のあらゆる権限を掌握するタッチの差で、図書6万冊、スライド・写真数千枚、家具などを含めた531個の箱を2隻の船に載せ、ナチスに反対していたハンザ同盟の職人たちの奇跡的早業のおかげも相俟って、1933年12月12日の脱出「劇」は、その過程も併せてスリリング。
しかし、海外に友人・協力者を作っておくというのは本当に大事ですね。
ロンドンに移転した後の戦時下のエピソードも面白い。
砲下での講義風景とか。
失礼な話、はっきりいってドラマや小説にしたらかなり面白い話だと思う。
解説文だけでも、かなり色々想像を掻き立てられてしまいます。
実際に歴史学としてやるとなると大変ですが、やはりヴァイマール期は魅力的です。