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SCHOLASTICUS LUGDUNENSIS 別館

森田安一『ルターの首引き猫』


ルターの首引き猫―木版画で読む宗教改革 (歴史のフロンティア)

ルターの首引き猫―木版画で読む宗教改革 (歴史のフロンティア)


学部時代の懐かしの1冊。
宗教改革史に興味ある方には、入り口として未だうってつけかと。


しかし退官されてしまいましたね。
最終講義行ってみたかったのですが。
宗教改革史、スイス史、都市史でお世話にならない人はいないですな。


副題通り。
木版画でみる宗教改革



15世紀末〜16世紀、終末意識の高さと贖宥状の売れっぷりと宗教改革は地続きといいますが、裏を返すとどんだけ地上が嫌で、個人で救われたがっていたのかとも取れますが、はてさて実態はどうだったのか。


ルターの95か条で、筆頭が悔い改めを提起しているのですが、問題は、どう悔い改めるか、力点・ベクトルがドイツとイタリアでは受けが違うと。


よくわかりませんが、最近の研究では、この具体的中身を明らかにするものがどの程度出てきているんでしょうかね。
説教関連では多少知ってますけど。


あと、Beatus Renanus が気になる存在です。
ルターやツヴィングリとも交流があった人物ですが。
ガイラーの伝記も彼でしたねぇ。


素人的には、15世紀末〜16世紀の書簡流通研究ってどの程度あるのかとか気になりました。
これ当時としては相当流通の速いメディアであり広範なネットワークを構築してますね。
しかし、なんでここまで書簡が残ってるのか。
そもそも今の感覚で「書簡」を見てはいけないってことですな。


レナーヌスの書簡を見ると、やはりメッセージ流布のメインは説教だったように見えます。


ビラやパンフレットを色々紹介してくれていますが、これらの具体的流布・受容の研究とか、行商人の活動とか、現在そういった点がどれだけ分かっているのかも気になる子ちゃんです。
ついでに書籍販路の実態とか。


木版画色々見れて楽しいんですが、分析としては図像の指示対象が誰か、どう表象されているか、文言の検討に終っていて、フォントやレイアウトといったもっと「モノ」レヴェルの分析があってもよかったのではないかとも思います。


それはそうと、何でわざわざ「首引き猫」という遊戯を採用したんでしょうか?
結局これがよくわからなかった。


この時代の反聖職者主義って、ようは一人に聖職禄保持が集中して、結局捌ききれるわけがないので代理司祭が増加→結果教区司牧の質の低下、と相成るようで。
この一人による独占と多数の者が非正規というアンバランスが、各人にしかるべきポスト・報酬を与えられず、言ってみれば格差社会と、それへの怨嗟というかひずみの1種として反知性主義みたいな源を生み出すのかなとも読めまして。
なんだかなぁと。


これまた余談ですが、本書で、ある種メインキャラたる、「くされフランシスカンw」トーマス・ムルナーって、キャリア的にはガイラーに近いんですね。


あと、ハンス・ザックスって6200篇も作品あるんですか。
なんですかこのアホみたいな量と残りっぷり。


全体として、木版画ビラ・パンフレットって全体でどれくらいあったとか、モチーフの傾向の統計とかあったらなとか、かなり「面白まじめ」にゴシップ的諷刺やってたんだなとかは雑感としてあります。