SCHOLASTICUS LUGDUNENSIS ANNEX

SCHOLASTICUS LUGDUNENSIS 別館

13世紀フランスの「迷信」≒民間信仰:聖なるグレイハウンド

ジャン=クロード・シュミットの「歴史民俗学」研究で一躍有名になった、ドミニコ会士エティエンヌ・ド・ブルボン(Etienne de Bourbon, ‐1261)が伝える、リヨン地方で崇拝されていた聖犬ギヌフォール信仰。史料全文。

聖犬ギヌフォール崇拝について

第六に、侮辱的な迷信について述べなければならない。そのうちのあるものは神への侮辱であり、あるものは隣人への侮辱である。神への侮辱となる迷信とは、悪魔や他の何らかの被造物に神の栄誉を帰するものであり、偶像崇拝がそうであるように、また、哀れな魔女の女たちがするように、教会や聖人の聖遺物を軽んじて、ニワトコの木を崇拝し、それらに供え物をし、健康を求めて自分たちの子供をそこに連れて行ったり、蟻塚や他のものに連れて行って健康を得ようとするのである。


リヨン教区で最近こうしたことが行われていた。そこで私が魔術に反対する説教をし、懺悔を聞いていたとき、多くの女性が自分たちの子供を聖ギヌフォールのもとに連れて行ったと告白した。私はこれを何らかの聖人だと思い、調査したところ、最終的にそれがある猟犬であり、次のような方法で殺されたのだと聞いた。

リヨン教区で、ヌヴィルと呼ばれる修道女たちが住む村の近く、ヴィラ―ル領主の土地に、ある城があった。その城主は妻との間に幼い男の子を持っていた。城主と奥方が家を出て、乳母も同じように出かけ、子供を一人ゆりかごに残していたとき、大きな蛇が家に入り込み、子供のゆりかごに向かった。そこに残っていた猟犬がこれを見て、すぐに追いかけ、ゆりかごの下まで追跡し、ゆりかごを倒し、蛇を噛みつきで攻撃した。蛇も身を守り、同じように犬を噛んだ。最終的に犬は蛇を殺し、子供のゆりかごから遠くに投げ捨てた。ゆりかごは血で汚れ、地面も犬の口も頭も蛇の血で汚れ、犬はゆりかごの近くに立っていたが、蛇との戦いで重傷を負っていた。



乳母が戻ってきてこの光景を見ると、子供が犬に殺され食べられたと思い、大声で泣き叫んだ。これを聞いて、子供の母親も同じように駆けつけ、同じものを見て同じように思い、同じように叫んだ。同様に騎士も到着し、同じように思い、剣を抜いて犬を殺した。



その後、子供のもとに近づいてみると、子供は無傷で穏やかに眠っていることがわかった。調べてみると、蛇が犬の噛みつきで引き裂かれて死んでいるのを発見した。真実を知った彼らは、自分たちにとってこれほど有用な犬を不当に殺してしまったことを悲しみ、城門の前にあった井戸に犬を投げ込み、その上に大きな石の山を積み上げ、この出来事を記念して近くに木を植えた。



しかし神の意志により城は破壊され、土地は荒れ野となり、住む人もいなくなった。しかし田舎の人々は、犬の高貴な行為と、自分が善行を期待されるべき相手のために無実の死を遂げたことを聞いて、その場所を訪れるようになった。悪魔に惑わされ欺かれて、犬を殉教者として敬い、自分たちの病気や必要のために祈りを捧げ、そこで何度も惑わされた。悪魔が人々を過ちに導くためであった。



特に病気で弱った子供を持つ女性たちが、子供をその場所に運んできた。そして、その場所から約1リュー離れたある城で、老女を呼び寄せた。彼女は儀式の行い方、悪魔への供え物の仕方、悪魔を呼び出す方法を女性たちに教え、その場所に案内した。



そこに来ると、塩やその他のものを供え、子供の産着を周囲の茂みに掛け、その場所に生えた木々に針を刺した。そして2本の木の幹の間にある穴に裸の子供を通し、母親が一方の側におり、子供を抱えて9回投げ、反対側にいる老女が悪魔を呼び出し、リミテの森にいる牧神たちに懇願して、彼らのものだと言う病気で衰弱した子供を受け取り、彼らが連れてきた太って丈夫で生きて健康な自分たちの子供を返してくれるよう求めた。



これが終わると、殺人者の母親たちは子供を受け取り、木の下のゆりかごの藁の上に裸の子供を置き、そこに持参した火から、親指ほどの長さの2本のろうそくを両端に立て、それらが燃え尽きるまで、また泣く子供の声も姿も見えも聞こえもしないほど遠くまで離れた。このようにして燃えるろうそくが多くの子供たちを焼き殺したことを、そこで何人かについて我々は発見した。



ある女性は私に語ったが、牧神を呼び出して立ち去った時、森から狼が出てきて子供のもとに向かうのを見たという。もし母性愛の情けで先回りしていなければ、狼か、その姿をした悪魔が、彼女の言うように、子供を食い殺していただろうと。



しかし、子供のもとに戻って子供が生きているのを発見すると、シャラロンヌと呼ばれる近くの急流の川に運び、その川で子供を9回沈めた。非常に強靭な体力を持つ子供でなければ、その時かその直後に死んでしまっただろう。



私たちはその場所に向かい、その地方の人々を召集して、前述のことに反対する説教を行った。死んだ犬を掘り起こし、聖なる森を伐採し、その犬の骨と共に燃やし、今後そのような目的でその場所に集まる者たちの財産没収と贖罪について、その土地の領主たちによる布告を出させた。

ベギンについて

日本で未だにベギンについて認知度が低く、小説や漫画の題材にしようとしても日本語で読めるベギンの情報が少ない・偏っているという事情を目にする。


日本語で読めるベギン研究は、ベギンと称された女性たちが書いた神秘主義的テクストの分析、ベギンが実際にどこに住み、どんな生活をしていたかなどを復元したものという、大別して2つの種類の研究しかない。もちろんいずれも重要な研究なのだが、もったいないのは、数多編まれたベギン女性たちの伝記群についての研究がない。自分も最初のベギンの伝記を中心にしたネーデルラントのベギン伝に関する報告をいくつかしてきたが、いずれも活字化できておらず。


せっかく研究したものを世に出すことなく墓場まで持っていくわけにもいかないので、どうにかして活字化の道を模索していきたい。


機会があればさわり程度でベギン伝を紹介していくのも検討している。

ベギン/「リエージュの聖女たち」の主要伝記群基本情報

13世紀の主なベギン伝/「敬虔な女性たち」の伝記一覧

ネーデルラント

  1. Maire d’Oignies, 1177-1213
  2. Christine de St. Trond, 1150-1224
  3. Marguerite de Ypre, 1216-1237
  4. Lutgard de Aywières, 1182/83-1246
  5. Beatrice van Nazareth, 1200-1268
  6. Juliana de Mont-Cornillon, 1193-1258
  7. Ida de Louvain,1250 ? -ap. 1231, ap. 1270 ? ou 1300 ?
  8. Ida de Nivelles, 1199-1231
  9. Ida de Leau, ou Gorsleeuw, 1250 ?‐ap. 1262~ v. 1270 ?
  10. Elisabeth van Erkenrood, ou Spalbeek, ? -1266 ?
  11. Aleyds van Schaalbeek, 1230 ? -1250
  12. Odila de Liege, ? -1220
  13. Ivette de Huy, 1158-1228

西洋西洋中世のレプラ(癩/ハンセン病)研究基本文献

【西洋西洋中世のレプラ(癩/ハンセン病)研究基本文献】

  • 赤阪俊一「ヨーロッパにおける性的逸脱者、癩者、ユダヤ人」(関西中世史研究会編『西洋中世の秩序と多元性』法律文化社、1994年、394‐410頁)
  • 東丸恭子「中世社会と癩」(『上智史学』vol. 29、1984年、96‐105頁)

史学雑誌 2021年の歴史学界 回顧と展望:アジア・アフリカ編

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現在への介入

史学史の意義


ナショナル・ヒストリーへの再注目


パブリック・ヒストリーの多様化・深まり?


客観主義・実証主義を乗り越える叙述


感情史と構造/現代・前近代


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