『自然の占有』
これもお手伝いの一環として読んだもの。
自然の占有―ミュージアム、蒐集、そして初期近代イタリアの科学文化
- 作者: ポーラフィンドレン,Paula Findlen,伊藤博明,石井朗
- 出版社/メーカー: ありな書房
- 発売日: 2005/11
- メディア: 単行本
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某界隈では、あまりにも有名な名著の翻訳。
個人的に、あくまで自分が読んだものの中での話ですが、今年上半期に出た*1西洋中・近世史関連の翻訳ものでは一番なのではないかと勝手に思っております(ちなみに去年の翻訳モノでは一番はサイモン・シャーマの『風景と記憶』)。ちなみに、今年上半期、邦語による西洋中世史の著作では『嘘と貪欲』が1歩リード。シリーズ物部門としては、『食の歴史』全3巻が今のところ独走中。そんな独断と偏見の chorolyn アワードはともかく、フィンドレンのこの著作は素晴らしい。
16−17世紀イタリアの蒐集家・「ミュージアム」を軸にした博物学形成とその知のあり方と、宮廷社会・政治という点がキーワード。
主人公は、ウリッセ・アルドロヴァンディや、アタナシウス・キルヒャー。
しかしながら、真の主役は「ミュージアム」そのもの。
流れとしては、自然の蒐集が、人文主義的(自然魔術的)解釈から離れて、自然をそのままから捉えていこうとする姿勢が徐々に現れてくるなかで、ミュージアムの意味・機能がどのように変わっていくのかというのが、本書の大筋でしょう。
まあ、しかし、ここまで蒐集家の世界を明らかにできるのだなと感心したのと同時に、宮廷社会との結びつきの具体も生々しく描かれてあって、鼻息荒く読みました。
使っている史料は大体ナラティヴですが、やはりカタログ・蔵書目録、そして芳名録なんていうのが使えるのがいいですな。
あと、書簡や書物の献辞への視点というのも示唆に富みました。
とまあ、他にも書きたいことは色々ありますが、個人的な関心からも、かなり面白いヒントが盛りだくさんでした。
「人文主義者」のルーツとかね。しかし、ノート取りまくって、こんなに手が疲れたの久しぶりです。
600頁を超える大著ですが、面白くて一気に読めます。ただ、人名などの基本情報は無いので、まったくこの界隈を知らない人には、出てくる人物が何者何だかさっぱり、という可能性はあるかもしれません。
しかしながら、一番のネックはそのお値段。翻訳本って高いですよねぇ(人文系の本の場合、翻訳に限りませんが)。ありな書房は、ページのレイアウト、フォント、装丁どれもお気に入りなのですが、やっぱ高いっすよ。この界隈をまともにやろうという人は、そりゃ原著のペーパーバックで読んだほうがいいと言われますわ。
Y 先生もおっしゃるように、ピサ大司教猊下による解説っていうのを読んでみたかったですなあ。
*1:今気づきましたが、フィンドレンも去年でした…