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佐藤賢一『英仏百年戦争』


英仏百年戦争 (集英社新書)

英仏百年戦争 (集英社新書)


年末の読み物として。


膨大かつ長大な先行研究をして、十字軍と並び「鬼門」と称されていた百年戦争研究。
今はこの時代を研究する人が、一時期からするといるみたいだから、ちょっとは状況変わったのか。
ほんの少しだけ齧ったことある人間から見ると、研究膨大だけど、実は穴場が結構あるように見えて、最初のとっつきにくさを克服すれば意外に楽しいのかもしれない、というような素人印象がある百年戦争期。
史料のジャンルも増えるしね。


しかし中世後期でフランス史やろうとすると、その入り口として百年戦争は不可欠というか、下手するとアルファでありオメガであったりする(たぶん)んだが、いかんせん手っ取り早く押えられる物が少ない。



そういう意味で、本書はかなりお手軽。

冒頭の、現代(1990年代)、平均的イギリス人は、百年戦争はイギリスの勝利で終っている、つまり実質この戦争はヘンリ5世で終ってて、後は薔薇戦争(=「シェークスピア症候群」)というのが面白かった。
恐るべきは「物語の力」というところか。


だいたい、「百年戦争」という呼称も20世紀初頭の産物だし、当時の人間たちがそういう認識なかったのは当然だけど。
ちなみに「薔薇戦争」という呼称はウォルター・スコットの命名だそうな。ソース何だかわからないが、知らなんだ。


しかし不思議と「英仏」とつい言っちゃうよね。「仏英」とはならない。
自分なんかは明らかにフランスメインの話でしょと思うんだけど。


本書の百年戦争の捉え方はアップデートが必要だが、いずれにせよ「入り口」だからそこは眼を瞑っとく。
興味ある人はさらに深めればいいだけの話。
巻末の年表が便利。