SCHOLASTICUS LUGDUNENSIS ANNEX

SCHOLASTICUS LUGDUNENSIS 別館

日仏カップル事情


すっかり自分の本業の読了文献を曝すコーナーではなくなってしまいましたが。


日仏カップル事情 日本女性はなぜモテる? (光文社新書)

日仏カップル事情 日本女性はなぜモテる? (光文社新書)


一見タイトルから判断すると、在仏の人からすれば、そんなのよくある話とか、フランスと接点のない日本にいる人からすれば、そんなもんか、とか、あるいは、自分は男だから関係ないとかで済まされそうな感がありますが、この本はちょっと違いますよというのが狙い。


著者はミシェル・レリス研究者。京大とソルボンヌで博士号取っている大阪外大の先生。


作家の藤田宜永の、日本の男性はなぜ「大人の女」が苦手なのか、をきっかけとして導入。


ここでいう「大人の女」とは、自己主張があって、理論的に話ができ、経済的にも自立している女性のこと。
ここで著者が引っかかった、「フランス人と違って」日本人は〜という箇所。
ちょっと待ってくれよ、フランス人の男もちょっとおかしいのよと。


やり方は、「日本人男性と違って恋愛にも議論の知的快楽を求めるフランス人男性」という紋切り型を切り崩すことで、フランス人男性と日本人女性が実際に相手に何を求めているかを探る。


この仏♂と日♀の相互幻想の解明から、互いの国の仕事・恋愛・結婚・家族事情の差異が大きく関与していることを示す。
そして実はここに、日♀の欲求が生み出される要因として、日本社会の現状、それに対する不満、抵抗、妥協が問題の鍵であることを浮き彫りにする。


まず、日仏カップルが生まれる背景の概観。大きな背景の説明ですな。日仏がなぜ「相思相愛」関係なのか。


ここでまず、日本側で、抑圧された反米感情から親仏路線を選ぶパターンがあるということを指摘。「自虐史観」語る方便としてフランス羨望を口にする輩がいること。
確かにこれはあるね。


この相思相愛、実は経済・文化面では顕著だが、政治の面では偏向があるという。つまり、日本の政治はフランスではほとんど話題にならないのだ。ちょっと注目されたのが2005年春の反日デモ。これで靖国問題が知られるようになる。


ここから、著者が直接経験したケースを具体的に列挙していく。


その一つが「日本の女の子はフランスで人気があるから気をつけて」という言い方。


「人気がある」「気をつけて」って何なのさと。
フランス在住日本人男性やツアコンのガイドのお姉さんやらの言葉で引いているんですが、そんなに言われるセリフなのか。


僕は、人気があるからがんがん行け、みたいなことを言っちゃってましたよ。これはこれで問題あるな。


他にもいろいろなケースが挙げられていますが、フランス側、特に若者の、マンガ・アニメ人気も言及。1990年代半ばに『ドラゴンボール』が爆発的ヒットしたことが、ファンの層をぐっと厚くしたそうな。へー、そうだったんだ。


確かに、『ドラゴンボール』はお子様に大人気でしたね。ついでに『らんま1/2』もお子様に人気ありましたな。あと『ポケモン』。


あと、学生レベルの交流を挙げています。確かにフランス語学ぶ日本人学生って女子が圧倒的に多いですよね。
で、ここでははっきりと触れられていませんが、日本語を学ぶフランス人学生って、男子の方が多いんじゃないんでしょうか。
僕が居た街ではそんな気がしました。この辺も、日♀仏♂カップルできやすい要因ではなかろうかと。


全然知らなかった話で、日本は2004年から、「電子メール通報制度」なるものを法務省入国管理局が設置して、一般市民が不法滞在者と「思われる」外国人に関する情報を無記名で提供できるシステムができていたということ。
2005年に国連人権委員会が「外国人を排斥する風土を助長するもので、即刻撤廃すべきだ」と指摘しています。
うーむ。


で、次にフランス人男性による日本人女性幻想の要因と具体例。


フランス人女性による日本人男性幻想って大して問題にならんのよねと。
日本の「顔」は圧倒的に女性だったと。


「耐え忍ぶ女」「ヤマトナデシコ」やら、トリュフォー『家庭』に出てくるキョーコとかが列挙。
ちなみにこの映画僕は見てません。


それから著者の身近であった話を紹介。
日本にやって来たフランス人夫婦が、夫は日本にいたがり、妻はフランスに帰りたがる。
夫は日本人女性と浮気しちゃったりして離婚になるケースもある。破局の原因は常に夫で、妻が日本人男性と浮気したためというケースは著者の経験では見られないという。


あ、これもそうだろうねと。


さらに、著者が厄介だと考えているのが、「ポジティヴな偏見」をしてくれるフランス人のこと。
日本贔屓してくれるのはありがたいが、逆にそれが幻想を増幅させるから困るのよと。
日本の悪い所を極力隠して、フランスに紹介してしまうらしい。
しかも、こうした人たちは日本宣伝部長・弁護士に留まらず、日本人に対して日本人の何たるかを語るところまで行ってしまう御仁もいるんだとか。
これが困るのが、日本人による日本批判に対してであり、日本人だとよけいに批判封じ込めに力が入る点。批判精神のある日本人にとっては迷惑だぞと。


レヴィ=ストロースも日本賛美しちゃってて、「伝統と近代の共存」とか、「勤勉な日本人」とか、ありがたいけど、御大、そんな褒め方はやめてくれと。


これまたほんまかいなと思ったのが、日本研究に携わる学者でも、フランス人研究者の場合、日本の近現代をやる人は少なく、日本の侵略戦争などを博士論文のテーマに選ぼうものなら教授陣から圧力がかかるんだとか。米英による研究とはかなり違う。日本ではヴィシー政権研究しても問題ないのにねぇと。


お次は日本人女性側によるフランス人男性への幻想の要因と具体例。


特に20代後半〜30代前半の女性がフランスに行きたがるらしい。ソムリエやパティシエやフロリストになりたいとか、大人になってからでもはじめられるものをやろうとして、フランス語を習う人が多いんだとか。フリーターやOLらしい。
これって、例の「下流」でいうところの自分探しと癒しとプチ自己表現を求める「普通のOL系」に似ているかも。


また、ル・モンド日本通信員、フィリップ・ポンスによる「社会変貌の最前線にいる若い日本人女性」の記事について、彼女たちの「カワイkawaï」文化を崇高に描くさまに首を傾げています。それに反してリベラシオンの、日本社会に根強く残る女性蔑視傾向やその結果としての差別待遇についての論を紹介。


ここで、ジュネーブに本部のある民間研究機関「世界経済フォーラム」による男女格差に関する2005年の調査報告を紹介。
経済への参加度、雇用機会の均等性、政治的決定権限、教育機会の均等性、健康への配慮の5分野、主要58ヶ国ランキング。トータルで日本は38位。健康分野は3位だが、政治的決定権54位、雇用機会均等性52位と、女性の社会進出面で最下位クラスだと。


さらにエピソードとして、JETROはフランス語のできる人材が必要だが、優秀な男子を回してくれと、女子はダメだと、非公式とはいえ、著者に向かって露骨に言ったという話を紹介。


そうして、多くの日本女性が社会に行き場がないとふって、次がパリ症候群の話。
リベラシオンで2004年12月に出た記事から。


確認しておくとこんな感じ。

憧れを抱いてパリに住む日本人を襲う適応障害の一つで、日常生活のストレスから鬱などの症状を招く。パリで多発するのは、もともと過度の思い入れ(花の都幻想)を持ち、目的意識が曖昧で、経済力が弱い滞在者が多い。言葉の壁や現地社会の『不親切さ』などが背景。問題が生じても中々帰らず、帰国しても戻ってくることが多い


患者の73%が女性、20代と30代に突出なんだとか。
しかも、大学生よりは転職組の方がダメージでかい(そりゃそうだ)。


これには先に触れた「女性の行き場」とも関係していると。




「大学に行くべし」→「就職すべし」→「結婚すべし」→「子ども産むべし」


の親や「世間」とやらのプレッシャーを、このくらいの世代の女性が「居心地悪く」感じているんだろうと。居心地悪くしてるのは自分自身だと気付けば世間の目なんぞ弱まるのにと述べています。


で、何でパリなのか。「パリ在住」という響き、「パリに住む私」への魅力なんだろうと。「パリに行けば何かがある」幻想、「ロマンスとおしゃれな街」幻想の為せる業ではないかと。「デモとストの街」なのにねとチクリ。



そして次が日仏カップルという誘惑について。
冒頭で、中村江里子と『負け犬の遠吠え』の酒井順子の対談を紹介。女性の意思表示って当たり前なのに、日本だと男性がたぶん引くだろうという話。「要求」や文句を言う女は「怖い」、なら文句を言わない若い子がいいやになるだろうっていう会話。


で、「女性は強くなった」という言説の問題に。これは現状を隠すだけの言葉であり、「女は昔から強かった」言説も、「母は強し」調の母性強調やオバタリアンを想定しているし、「男は外で威張っているが家では妻が実権を握っている」言説も同じだと。
これは女性の進出を肯定するように見えながら、その実それを牽制する働きを持っていると。


似たようなことがフランスでもあるんだと、バダンテールを引用。


さらに、この「強くなった」は、恋愛面では「強くなりすぎた」の意で、「だから男が敬遠するのだ」の非難が隠れていると。
ここで、生徒の女子の証言。同年代の男とつきあいたいと思ったら、相手より賢いと思われちゃダメなんだと。
「大人の女」苦手説につながりますよと。
もしくは、上野千鶴子言うところの「男の自尊心をお守りしてくれる女」とか。


しかしながら、はっきり意思表示をする女性を「恐いな」と思って引いてしまうのは日本の男性だけではない。フランスの男性にも一定程度いるのだと。


日本人女性と付き合っているフランス人男性が言う、「日本人女性は優しいから好き」の「優しい」っていうのは、「意思表示のはっきりしたフランス人の女の子と違って」が裏にあるのであり、要は「日本の女性は文句を言わないからラクぐらいに理解すべきだと指摘。


フランス人夫と同程度のキャリアを持っている日本人妻ってどれだけいる?とも述べています。
さすがに専業主婦はいないだろうとしても、ひょっとして夫がそれとなく自慢できる職業だったりしませんか?と。通訳とか日本語講師とか。ま、これが自慢できる職業なのかどうか僕には判断しかねますが。


で、「結婚は逃げ場」という考えに一言もの申す。フランスで専業主婦っていうのはほぼありえませんよと。
確かにほとんどが共働きでしょうね。


それと、上の世代に多いらしい「結婚できるうちにしておかないと孤独で不幸になる」結婚観も、フランスではないでしょうよと。


そうして最後。
数は少ないが存在する、日本人男性と結婚したフランス人女性のケースを。
こちらの方が、上手くいくのは相当難しいんだと。
これは容易に想像つきます。


後は、娘が生まれたら日本人、息子だったらフランス人にすると、しれっと言っていたフランス人夫の話とか、子どもが生まれたら、妻が母親になってしまったと嘆くフランス人夫の話とか。


これは、「自分の妻」、「自分が愛して結婚した女」が、「自分の母親の子ども」になり、「女としての夫に対する愛情」よりも「母親としての子どもに対する愛情」が優勢になったということ。


このことについて、サラリーマンと専業主婦という戦後日本型家族では、必然的に〈女よりも母〉型が圧倒的多数を占めるという。
夫が不在→妻の関心・愛情が子どもへ→自己実現の手段を持たない母親は、とりわけ娘に自分の夢を叶えてくれるよう願いを託す→父親疎外される→本来3人であるべき親子関係が母と娘密着の〈プラトニックな近親相姦〉(=「一卵性母娘」)に→こうして育った娘=母の願いを内面化=母の支配から逃れられず→夫を疎外した母=もはや性的に〈女〉に非ず=「性を失った女性」に。


つまり、「子どもが生まれると妻が母親になってしまった」現象は何ら自然なものではなく、あくまで夫婦間関係の欠如が原因で生じた病的事態なんだと。病的ゆえにこういう両親を持つ子どもは不幸になる危険性が高いと。


この図式、「ん?」という箇所も無きにしも非ずですが、面白い指摘です。


今の20〜30代で、「親みたいな夫婦になりたくない」「母親がかわいそう」と思っている女性は多いという。
「お父さんと離婚しなかったのを後悔している」「あなたたちがいなかったら、離婚していたわ」などと母親から聞かされる娘たちが多いんだとか。


ちなみに僕の母親も似たようなことを言ってました。もう離婚しましたが。


これが問題なのは、娘に対する影響というか害。娘の結婚観、ひいては人生設計にまで影響を与えていると。


そして、フランスに「負け犬」は存在しないと指摘。
離婚率高いのは知ってるし、出生率が1.9がEU内でアイルランド並んで一番高いっていうのは、まあ知られていることですよね。
29〜49歳の女性就労率80%で、EU内で一番高く、つまり、子どもと仕事を持つことが両立されていると。
子ども3人以上世帯率もフランスが1位。しかもこれが移民系フランス人ではなく、中・上級職階級に顕著だと。
他の要因は、「複合家族」の形態にもあるだろうと。


でも、どうだろう?結婚しているかに関係なく、フランスだと「パートナーがいない」っていうのは「負け犬」と見なされることありませんかね?「負け犬」のレベルというかパターンが違うような気がするんですけど。どうですかね。


「女性の就労率が高いほど、出生率も高い」は、2005年の厚生労働省の白書でも指摘されている。
山形、富山、高知では、正規雇用女性が多い一方、出生率も全国平均を上回っている。逆に男性の就業時間が長く、女性がパートの大都市部では出生率が低い。

女性が子育てしながらフルタイムで働ける環境整備をすることが少子化対策の一番の早道だと。


最後に、人生は選択の積み重ねであり(この場合の「選択」とは大学を選ぶとかのことではない)、意識的に人生を生きることが自信につながるのだと。

そして、「大人の女性」と対等に付き合えるのがフランス人男性の本来の姿であり、日本の男性はまだまだかなわない。
「仕事・子育て・魅力」を実現するには、女性側の意識の変化だけではダメで、男性も変わってくれないとダメなんだよと。



ざっとこんな形で終わります。

ちなみに、著者自身は結婚しているのかいないのか、相手はフランス人なのか日本人なのか、よくわかりませんでした。
この立ち居地を示すことは、さほど問題ではないということなんでしょうか。


ここまで見たらお分かりの通り、本書は、実を言うと、一部仏♂への苦言でもあります。

そして、フランス人と結婚した日本人女性に対してチクリチクリと刺している本でもあります。
「あなたの夫ってどうなの?」「あなたはどう振舞って今の夫をゲットした?」と問いかけているようにも読めます。


身も蓋も無く、極端に言ってしまえば、日本の男性の多くはヘタレ君である、そして、日本の女性を好むフランス人男性も多くはヘタレ君であると。そう読んでもそれほど間違っていないと思うんですけどどうでしょう。


本書のターゲットは、日♀なんですが、裏というか、真のターゲットは日♂です。ネットで、男性にはあんまり関係ない本ですとの感想を見たことがあったんですが、それは違います。

いいかげん、もっとちゃんとした大人になってくれよと、男に言っている本ですよ。


こういう日仏カップルからの切り口って、フランスと何らかの関わりを持っている人たちには、ある種「常識」でしたが、本にまとめたものはこれが初なのでは。


ただ、タイトルから、日本の「大人になれていない男性」が手にとって読むっていうのは、あまり少ないかも。
ちょっともったいない。こればっかりは難しいけど。
とりあえず、20〜30代女性に届けばいいと判断したのかもしれません。

あと、本文の中で明記されていますが、個人的には参考文献欲しかったです。


「フランス女性としっぽり計画」を失敗したヘタレ日本男としては(笑)、イタ気持イイ本でありましたよ。
いや、ほんとモテないんだって。日本女子と比べると。


日本に興味ある子は別ですが、そうでない子だと、こっちがマンガ・アニメ知っていると、ちょっと引かれたりしましたよ。
あ、僕の外見もあいまってたんかな?


思えば、アジア系や東欧系の子とマダムくらいしか吸収率高くなかったなぁ。言うほど高く無いですけど。
うわ、なんかすげー可哀想な奴臭がプンプンしてきた…