SCHOLASTICUS LUGDUNENSIS ANNEX

SCHOLASTICUS LUGDUNENSIS 別館


エル・シードの歌 (岩波文庫)

エル・シードの歌 (岩波文庫)


面白い。
中世の英雄モノの中で、個人的にベスト3に入る。


王の不興を買って追放され、妻と娘を残して騎馬軍を率いてイスラム勢力と連戦し、ついには敵国の大都バレンシアを落とし富と栄誉を手に入れる、エル・シード(ロドリーゴ・ディアス・デ・ビバール:1043?−1099)の事績を讃えるスペイン最古の武勲詩。


情景描写がかなりリアル。
戦闘シーンも実際の戦闘を髣髴とさせる描き方。ついでにわりと映像化し易そうな描写をするのが面白い。
腕力にものを言わせる中世お決まりの戦闘という要素が薄い。
基本奇襲。寡兵だから仕方ないんだけど。
戦闘は商売の一つ。
武器よりも馬が戦闘でかなり重要。
そういえば弓って武勲詩とかであんまり描かれないですよね。

主人公が基本的に冷静、熟慮型。勇敢であることはデフォ。
感情にまかせてアホな行動をすることがない。
「武」よりも「賢慮」。
基本ポジティヴ。
つらいことがあってもじっくり考え、自分達にいい方向に巧みに導く。
かなりかっこいい。


富は財宝ではなく、ひたすら貨幣。そして馬の数。
この辺もニーベルンゲンとかの英雄ものとは違う。
というかニーベルンゲンって英雄ものか?っていう話にもなりますが。


解説では十字軍の要素無いようなこと書いてありましたが、どう見ても十字軍的に見えます。
世俗的野心満々な所が初期十字軍とソックリです。
あと、「国土回復運動」て…。

第2歌では結婚の描写が色々な意味で興味深い。
第3歌は裁判描写と決闘裁判の描写。


あとカスティーリャ最高、カタルーニャ「ぷっ」っていう雰囲気が面白い。


構成面では、詩の行数がちょっと他の武勲詩に比べてバラつきが激しいのかな?と思ったのと、詩節の切れかたが内容の切れ目と一致していないところが多々あって、これもちょっと面白いのかな?と思いました。


過剰な美辞麗句や決まり文句というのがわりと少ないように思えました。
そのせいか結構読みやすいような気がします。


設定は11世紀ということですが、作品の成立年代が12世紀半ば〜13世紀初頭ということで、その辺りの要素が随所に垣間見れます。
とは言うものの、中世スペイン史ド素人ですからそれが本当に合ってるかどうかは定かではありません。


そして『ベーオウルフ』と同じで現存する写本一つしかないっていうのもなんだかね。


とにかく色々な点で興味深いテクストでした。