SCHOLASTICUS LUGDUNENSIS ANNEX

SCHOLASTICUS LUGDUNENSIS 別館

『史学雑誌』「回顧と展望」


歴史学徒御用達、毎年6月の風物詩、昨年の歴史学界の動向を総覧する「回顧と展望」。


目次は以下の通り。


総説
歴史理論


日本
考古
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近世
近現代


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近代
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ヨーロッパ

古代
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ローマ


中世
イギリス
西欧・南欧
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近代
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イギリス
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ドイツ・スイス・ネーデルラント
ロシア・東欧・北欧
南欧


現代
一般
イギリス
フランス
ドイツ・スイス・ネーデルラント
ロシア・東欧・北欧


アメリ
アメリ
ラテンアメリカ


総勢100名の評者による昨年に発表された論文・著作を網羅する批評。



通読した感想ですが、噂に聞いていた某先生、本当に「超人」であることがわかりました。
年に10本論文書くとは聞いていましたが、複数のジャンルで書いていたんですね。
思想史なら思想史、社経史なら社経史と、個別テーマに特化した領域多産な研究者っていうのはそれほど珍しいことではないとは思いますが、ここまで様々なジャンルで手堅くかつ重要な論稿を立て続けに発表するっていうのは凄まじいですな。
欧米でも多産かつ多分野で活躍する「超人」はいますが、なにぶんあちらは出版事情が違いますからね。
日本みたいに仕事早くないですから。


あと、毎回思うんですが、古代史は格段に舌鋒鋭いですな。「自意識が鼻につく」なんてフレーズ、書評で見た記憶がありません。


それから、近世史では、出版資本、自治体権力、観光資本の肝煎りで、「学」を装った「研究の商品化」が推進されているという批判がありました。しかしそうはいっても、それでも生活の糧になるなら、そちらに「加担」してしまう研究者がいることもやむを得ないように思えます。
皆が皆、安定したポストを得られないわけですし、売文の徒にならざるを得ないというか。
むしろそうせざるを得ないような構造に対して、どう取り組むかということでしょう。こうなると「売文の徒」になってしまっている人間だけで解決するには無理があるように思います。


まあ、残念ながら、外国史を底辺でやっている人間には、そうした「売文」の機会も極々僅かしかないのですが。


あとは、若手による「初めに文書館ありき」の脅迫観念批判とか、外国語で論文を書くことに対してのコメントとかですかね。
こういうことが外国史のところで出るっていうのも、またなんと言うか。
よっぽど思うことがあったんでしょうか。


あと、前から思っていたんですが、「回顧と展望」だけでもウェブで全公開っていうのは無理なんですかね。
ブログ形式でも何でもいいですが、ついでに紹介した論文は NACSIS や CiNiiと連携したり、書籍に関してはアマゾンなりに直リンク貼るようにすれば、興味を持った人に買ってもらえる可能性もあがるし。なによりも、日本の歴史学の研究動向を一望できるわけですから、下手なトンデモ歴史観に対しても有効なように思えます。ネット言論においても有効な参照媒体になると思うのですが。まあ、「回顧と展望」のワーキング・グループがあるようなので、当然こんな議論は出ているんでしょうね。


ついでに言うと、史学雑誌の書評や巻末文献目録だけでもウェブ公開かつアマゾンなりに直リンクは結構有益だと思うんですよね。
もう雑誌自体を買ってくれるっていうのも難しいですし、しかも日本の雑誌は高いですからね。
会費は、それなりに安定した収入が見込めますから、運営にとっては必須でしょうが、アマゾンなどから売り上げマージンとってその収益を運営費に回すっていうのも手だとは思うんですよね。常に一定の収益を見込めるとは限らないので、そこは難しいですが。


まあ、戯言ですけどね。