SCHOLASTICUS LUGDUNENSIS ANNEX

SCHOLASTICUS LUGDUNENSIS 別館

 「中世イタリアの飢饉と農村‐14世紀トスカーナを中心に‐」

昨日ゲットしてきた邦語論文の一部。


中谷惣「中世イタリアの飢饉と農村‐14世紀トスカーナを中心に‐」(『西洋史学』vol . 216、2004年、1‐23頁)


かなり良い。従来言われてきた14世紀イタリアの頻発する飢饉の説明が、気候変動、人口過剰など、マクロ的な視点でしか解釈されていないこと、しかし、「誰がなぜ飢えるのか」という問題設定から、プラート地方を例に取り上げて分析した結果、都市富裕者層による農村所領の取得、それによる穀物市場のコントロール、及びこの都市富裕者層によって支配される農村食料政策の不手際が1300年代に飢饉を頻発させたと結論。


すっかり理論として強固に構築された議論の問題点を浮き彫りにし、絶妙なサンプルを取り上げることでピンポイント攻撃し、さりげなく現地の文書を大量に分析して、極めて説得力に富む説を打ち出している。
都市‐農村関係の研究って、研究者は膨大だし、研究の蓄積もハンパではないし、展開する議論も数ある中世史研究のジャンルでもハイレヴェルなんで、相当の体力・集中力・理論構築力がないと若手はしんどい分野だと思うんですが、この論文は良いです。


ある意味嫉妬してしまう論文。


しかし、1300年間の百年に18回も飢饉がイタリアを襲っているんですが、これは天災ではなく、人災だったということになるんですね。
とんでもねぇな。
小麦作っている農民が飢えて、ごく一部の富裕な都市民が潤う一方って。