SCHOLASTICUS LUGDUNENSIS ANNEX

SCHOLASTICUS LUGDUNENSIS 別館

読書会終わったー。

苦節3ヶ月余り。ついに読みきりました。


The Body and Society: Men, Women and Sexual Renunciation in Early Christianity (Lectures on the History of Religions, New Ser. No. 13)

The Body and Society: Men, Women and Sexual Renunciation in Early Christianity (Lectures on the History of Religions, New Ser. No. 13)


目次は以下の通り。英語なので訳は割愛させていただきます。




Part 1 . From Paul to Anthony


1 . Body and City
2 . From Apostle to Aplogist : Sexual Order and Sexual Renunciation in the Early Church
3 . Martyrdom , Prophecy and Continence : Hermas to Tertullian
4 . " To Undo the Works of Women " : Marcion , Tatian and the Encratites
5 . " When You Make the Two One " : Valentinus and Gnostic Spiritual Guidance
6 . " A Faint Image of Divine Providence " : Clement of Alexandria
7 . " A Promiscuos Brotherhood and Sisterhood " : Men and Women in the Christian Churches
8 . " I Beseech You : Be Transhormed " : Origen
9 . " Walking on Earth , Touching High Heaven's Vault " : Porphyry and Methodius
10 . Church and Body : Cyprian , Mani and Eusebius of Caesarea


Part 2 . Asceticism and Society in the Eastern Empire


11 . The Desert Fathers : Anthony to John Climacus
12 . " Make to Yourselves Separate Booths " : Monks , Women and Marriage in Egypt
13 . " Daughters of Jerusalem " : The Ascetic Life of Women in the Fourth Century
14 . Marriage and Mortality : Gregory of Nyssa
15 . Sexuality and the City : John Chrysostom
16 . " These Are Our Angels " : Syria


Part 3 . Ambrose to Augustine : The Making of the Latin Tradition


17 . Aula Pudoris : Ambrose
18 . " Learn of Me a Holy Arrogance " : Jerome
19 . Sexuality and Society : Augustine
Epilogue . Body and Society : The Early Middle Ages


ブラウンは古代末期研究では世界的権威であり、初期中世史家にとっても無視できない研究者。
アウグスティヌス研究や古代末期の聖人崇敬研究などで有名。

本書は、あのフーコーの『性の歴史』が扱えなかった領域、つまりローマ帝国キリスト教における性の態度について取り組んだ大著。

フーコーも『性の歴史』を書くに当たって彼にアドヴァイスを受けていました。

中世身体史をやる上で、彼の著作は研究史上必ず挙げられる作品で、なおかつ皆が大事なんだけど中々読まない本なんだよねー、ということで今回取り上げました。


ところが、この人の文章はかなり難解。僕は見たことない単語の連発、一文そのものがレトリックで終わってて、一体何が言いたいのか意味を取るのに四苦八苦。

おまけに古代史、初代キリスト教会史について通り一遍のことしか知らないから、前提となる知識を入れるのにも苦労しました。


本書はパウロの時代からアウグスティヌス、そして初期中世までと、およそ300年くらいのスパンの中で、帝国内少数派だったキリスト教の性、身体に対する態度にどのような議論があったのか、そしてそれが国教化後の世界でどう展開され、初期中世へ至るのか、つまり現在の西欧の身体観、性への態度の根幹を形作るのに決定的な役割をどう担うようになっていったのかを辿る壮大なキリスト教の性への態度の系譜史。

帝国のパレスティナ小アジアの東地中海世界、さらにシリアの東、ペルシアの彼方から、エジプトの砂漠、西に目を向ければイタリアやガリア、カルタゴなどの北アフリカ世界と、地域的にとてつもなく広い。

単なる少数派の宗教で、ユダヤ教やその他の古代の異教や、ギリシア思想などとの差異化・摂取を図る中から独自の性・身体・魂について態度を練り上げていく所から、キリスト教化された世界で、キリスト教内部での議論の中から更なる身体観を構築していく様を、もの凄い数の著作から抽出していく。

結果、本書は、身体、性、心と体の捉え方、扱い方を通して、男女のあり方、親子、家族、生者と死者のあり方がどのように解釈され、再配置され、ひいては都市、社会の捉え方・あり方がどのように変わって行ったのか、ダイナミックに描いているところに、この本の凄さがあると言えるかも知れません。


個人的には、男女関係や性について、中世につながる態度とは違う、もっと対等な関係を築ける可能性がシリア世界のキリスト教にあったということ、そして、4世紀の西ローマ世界の保守反動的(ブラウンは全体主義的とまで言う)世界で展開される、アウグスティヌスなどの西方教父たちの主張がいかにコスイものであったか、その辺のことが分かってかなり有益でした。それと、こういった態度が次に初期中世ではどう受容され、さらには変容を加えられていくのかが気になるところ。


とにかく、ヒエロニムスはとんでもない奴だということ、アウグスティヌスは何と言うか、常に自分探しをしている人というか、性に対して異常に警戒をしている、ムッツリで青臭い奴だったんだなという感を強く持つようになりました。

それと新プラトン主義、グノーシスの影響の強さ、なぜオリゲネスがあれほど受けるのか、そういった点もかなり興味深かった。


実は本書、もう翻訳が完成していて、後は出版社待ちの状態にあるんだそうです。
それを早く言ってくれ。