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内田日出海『物語 ストラスブールの歴史‐国家の辺境、ヨーロッパの中核‐』


物語 ストラスブールの歴史 - 国家の辺境、ヨーロッパの中核 (中公新書)

物語 ストラスブールの歴史 - 国家の辺境、ヨーロッパの中核 (中公新書)


著者は成蹊大の経済学部の教授。ストラスブール大で歴史学博士の学位。1953年生まれ。
自分は訳書しか知らない。専門は経済史。



すっかり中公新書の「物語〜の歴史」シリーズは結構な数になってる。
しかし帯の「ゲルマーニア的精神とフランス的教養」って、激しく突っ込みいれたい衝動に駆られるんだが。


たいていの人は、ストラスブール Strasbourg といえば、フランス北東部国境、アルザス Alsace 地方の首都で、アルザスワインにシュクルート程度の知識もあるかどうか不明ではないかと。
ちなみにフランス国歌「ラ・マルセイエーズ」誕生の地でもある。


ちょっと歴史をかじったことある人なら、昔はドイツ領でシュトラースブルクって言うんだよねー、とか?
サッカー好きなら、アーセン・ベンゲル Arsène Wenger の出身地とか?

歴史学徒なら、やはりストラスブール大とリュシアン・フェーヴルとマルク・ブロック、『アナール』発祥の地と想起するか。


ちなみに、自分は中世史かじり立ての頃に、この街の表記 Argentoratum を見て、なぜにアルゼンチン?と首を傾げた記憶がある。



歴史上、ドイツとフランスの間でその領有をめぐって数奇な運命をたどった、このフランスのライン河沿いにある人口27万余りの都市は、近年では欧州統合の展開に伴って、ヨーロッパの「首都」の一つとして、その存在感をますます高めつつあるという。


著者は、このフランスとドイツ双方にとって、地理的に「辺境」・「周縁」の位置にあったこの都市が、ヨーロッパ史における戦禍と排除、文化的合成と爛熟、寛容と自由といった部分を、他の都市にもまして色濃く(フレスコ画のごとく)体現しているという。


本書は、以下の流れに整理してこの街の歴史を描く。

  1. 古代・中世ヨーロッパにおけるストラスブール(司教都市・神聖ローマの帝国自由都市
  2. 近世・近代の絶対王政国家ないし国民国家におけるストラスブール(地域圏の中心都市・地方都市)
  3. 再生・統合の現代ヨーロッパにおけるストラスブールEUの一首都としてのヨーロッパ的都市)


個人的には、古代・中世都市としてのシュトラースブルクの成り立ちも興味深いのだが、やはり、宗教改革期のこの街の重要度の上がりっぷりが面白いと思った。
とりわけ、政治と宗教、教育という観点からストラスブールを見ると、結構面白い現象がいくつもあることを再確認。
あとはフランス併合後やフランス革命期も面白いが、ドイツ再併合後の状況についてまったく無知だったので勉強になった。この街が第3共和制を体験していないということは、かなり重要。


この街の歴史の流れを素朴に見れば、正直ドイツ領有時代の方が自由があってよかったんじゃないのか?経済的にもよかったんじゃないのか?などと思うが、フランス領有時代とドイツ領有時代で、どちらの方が経済的によかったかという点は、実はこの街ではあまり関係がないらしい。政治史と経済史の流れが、必ずしもオーバーラップしているわけではないらしい。