SCHOLASTICUS LUGDUNENSIS ANNEX

SCHOLASTICUS LUGDUNENSIS 別館

池上俊一『ヨーロッパ中世の宗教運動』

ヨーロッパ中世の宗教運動

ヨーロッパ中世の宗教運動


前著を継ぐ1冊。

ロマネスク世界論

ロマネスク世界論


前著『ロマネスク世界論』では、樺山紘一(あとル=ゴフ)を、そして本書では堀米庸三の学統を引き継ぐことを目指したとのこと。


前作が10−12世紀前半で、心的世界の「構造」解明を標榜したのに対し、今作はヨーロッパ中世世界の誕生から崩壊間際までの宗教運動の形態とそこに表出する<霊性>の「変化」を探ることを企図。


例によって長大な作品で、本文600頁、注も参考文献も厖大。
なので、氏の大著を読む時は、しおりが必ず2つはいる(注用と参考文献用のしおり)。
ただし、手っ取り早く内容のポイント掴みたい人は、とりあえず序章と終章だけでも読んでおけば、大雑把な議論の展開は押えられるかと。


個人的には、隠修士千年王国運動の章が有益でした。
鞭打ち苦行団も、よく知らなかったので勉強になりましたが、扱わなれかったラウダ運動の方に関心あるんですよね。


カタリ派やベギンについてはまあ。

あと、基本イタリア・フランス・ドイツ地域の宗教運動がメインで(まあ大きなというか「特徴的な」運動に焦点を当てているからだとは思われるが)、例えばイングランドの宗教運動についてはほとんど触れられていませんよね。
最後にロラードなどに言及されているくらいで。


何にせよ、これだけの史料と研究書を網羅し、研究動向の整理と各運動の歴史的展開を日本語で読めるというのは、これからこういった領域をやろうとする者にとっては有益でしょうね*1

*1:細かいことですがちょっと気になったのが情報誤記など。例えば、レーゲンスブルクのベルトルトはドミニカンじゃなくてフランシスカンですよね。あと、ワニーのマリなのに、マリー・ロビーヌというのも、2人ともマリの方が落ち着きがいいように思えます。←本文では2人ともマリでしたが。注作成者のミス?まあ、かつてはワニーのマリのことを、マリー・ドイグニースと表記してたので、それに比べればいいですけど。