SCHOLASTICUS LUGDUNENSIS ANNEX

SCHOLASTICUS LUGDUNENSIS 別館

僥倖なり。


Carlo Delcorno, Giordano da Pisa e l’Antica predicazione volgare (Firenze: Leo S. Olschiki Editore, 1975).




Indice

Premessa

Parte I. Predicatore e publico
I. La personalità di fra Giordano da Pisa
II. Società e publico nella predicazione griordaniana


Parte II. Retorica del sermone volgare
I. Giordano da Pisa e le forme della predicazione medievale
II. Parti canoniche della predica
III. Elementi retorici e narrativi


Appendici
I. Repertorio degli esempi di Giordano da Pisa
II. Censimento delle prediche di Giordano da Pisa
A) Prediche datate
B) Prediche senza data
III. Tavole sinottiche della predicazione di Giordano da Pisa


Carlo Delcorno の詳細プロフ
ボローニャ大の教授


イタリアの説教研究については、さほど知っているわけではありませんが、このデルコルノはイタリアにおける中世説教研究のパイオニア的人物の一人として記憶しています。
特に説教における俗語とラテン語の問題などの研究にいち早く着手した人だったのではないでしょうか。


で、タイトルのジョルダーノ・ダ・ピサ Giordano da Pisa (v. 1260-1310) はドミニコ会士で主にフィレンツェとピサで活動した、非常に多作な説教師。
彼の説教が、イタリアで初めて俗語で記録された説教として知られています。


まあ、この人物自体、デルコルノの研究で僕は知りましたが。


イタリアは説教史料が(も)膨大です。
特に筆録説教=レポルタチオ reportatio (report の語源)史料では抜群の素材を提供してくれています。
レポルタチオは、生で行われている説教を、その場で書きとめた説教のメモのこと。いわば聞き書きの記録。


説教史料が飛躍的に増大するのが13世紀で、厖大に残されている説教史料中、大半が範例説教集 model sermon と研究上分類されれるもので、説教師が説教の台本としてしたためたものです。
これは聖書の引用、説教の展開の仕方など、内容は詳細かつソリッドな構造をもっているとされています。
その反面、具体的に、何年何月何日のどこで、誰に向かって説教されたか、という情報はほとんど分からない。
大抵は月と日にちくらいしかわからない。


それに比べてレポルタチオは、説教がなされた日時、場所、そして聴衆が特定できる。
ただし、ライヴを記録しているだけあって、内容はかなり端折っていたりする。
しかし、説教の最中に聴衆によるツッコミや質問が記録されていたり、逆に説教師がアドリヴで話をしていたりするのがわかったりと、文字通り生の説教を垣間見ることができる貴重な史料です。
いわば中世の俗人の信仰のありかた、及び教会人による教化の具体を探れる素材という面があるわけです。



そしてこのレポルタチオには、主に2種類のタイプがあり、聖職者の手によるレポルタチオと、俗人の手によるレポルタチオがある。


特に説教史研究が注目したのは、後者の俗人レポルタチオ。
そしてこのタイプはイタリアがいち早く出現しています。


商取引など、商業の発達が早かったせいか、読み書きできる俗人が多数いたことが背景にあると見なされています。
自身の家門のために「覚書」を書くような、「物書き商人」marchands écrivains というタイプの商人が結構出現するだけのことはあります。
というか、他の地域で俗人レポルタチオがあるっているのは、寡聞にして知りません。


ただし、レポルタチオ自体はフランスにもあります。
特にパリは13世紀だけでもけっこうな数残されていますが、いずれも聖職者、大学人の手によるレポルタチオです。
しかし、これもかなり面白く、1日にどれくらい説教が行われていたか、どこでやっていたかなどわかるし、聖職者のレポルタチオとは言っても、何も聖職者向けの説教のみが記録されているというわけではない、というのがポイントです。


話を戻して、イタリアの俗人レポルタチオで有名なのが、シエナベルナルディーノによる説教のレポルタチオ。
これはいち早く刊行されたおかげで、かなり研究の蓄積があります。
俗語による説教の記録のヴァリエーションが豊かなイタリアは、俗語とラテン語の関係、俗人霊性との関連といった面のアプローチが早くからなされてきたように見えます。


日本語で読める中世説教研究の入門書というのはまだありません。
さしあたり概観を掴むには以下の文献があります。


嘘と貪欲―西欧中世の商業・商人観―

嘘と貪欲―西欧中世の商業・商人観―


特に第5章。



それとこれ。



特に、

  • 大黒俊二「文字のかなたに‐15世紀フィレンツェの俗人筆録説教‐」139‐168頁。


これくらいでしょうか。

                                                          • -

おまけ:


デルコルノの報告&討論映像。L'exemplum biblique existe-t-il ? Intervention de Carlo DELCORNO
AAR: Les Archives Audiovisuelles de la Recherche en Sciences Humaines et sociales より。


フランスの研究機関サイトって、こういう研究者の報告とかの映像挙げてくれているのけっこうありますよね。
日本の歴史学界隈でも学会なり研究会なりで、こういう風に映像を取ってサイトに挙げるのあってもいいような気がしますが、もうやっているところあるんですかね?


しかしこれ画質いいすねぇ。というか、デルコルノ先生、フランス語流暢です。