SCHOLASTICUS LUGDUNENSIS ANNEX

SCHOLASTICUS LUGDUNENSIS 別館

補足

光栄なことにIulianus 氏
からコメント頂いてしまいましたので。
昨日の僕のコメントについて幾つか補足しますが、長くなりそうなのでコメント欄ではなくこちらで扱わせていただきます。


パウロが初とも」と書いたのは、単に岩波書店キリスト教辞典』(岩波書店、2002年)の聖痕の項目からの引用です。


まず、スティグマがフランチェスコからというご指摘ですが、僕はちょっと思うところがあってあのように書きました。


根拠の一つが、ジャック・ド・ヴィトリが書いた『ワニーのマリ伝』Jacques de Vitry , De B . Maria Oignicensi in Namurcensis Beligii Diaecesi , AA . SS . , junii , tom . 5 (June 23) (Paris , 1867) , pp . 542 - 572 の記述です。ちなみにこの伝記はマリの死から2年後の1215年に書かれました。

さて、彼女の臨終近い箇所で、


“... beatus autem Petrus ei claves ostendebat , et quod coeli januam ei aperiret promittebat : Christus autem signum suae Crucis , victoriae suae vexillum , pedibus ejus affixit . ”, cap . XII , Ultimus morbus , pius obitus ; AA . SS . junii tom . 5 , p . 570F .
「…聖ペテロが鍵を彼女に示し、彼女に天国の門を開くだろうと約束した。そしてキリストが、彼の栄光の旗である、その十字(架)の印を彼女の足に刻み込んだ。」


とあります。この Christus autem signum suae Crucis , victoriae suae vexillum , pedibus ejus affixit をスティグマと解釈できるかどうか、ということが問題になると思います。僕はaffixit を上の訳のように取りました。

これは、マリの臨終近い奇蹟の一つとして描かれているので、ジャックによる象徴的な表現とは取り難いと思い、僕としてはこれはやはりスティグマと取っていいのではないか、マリは足に聖痕を受けたのではないかと考えています。
確かにチェラーノのトマスによるフランチェスコ伝で描かれるような聖痕刻印の光景に比べればそっけないとは思いますが。


それと、中世で聖痕という現象がなぜ13世紀に出てきたのかということを考えると、やはりキリストの人性への崇敬の高揚があるのだと思われます。
肉体を持ったキリストが苦しみ、世を救うというモティーフへの敬虔の高まりが、スティグマのような身体の奇蹟を生み出す要因の一つだったのではないのかと、朧げながら感じております。


そして、このキリストの人性への崇敬が、12世紀末から13世紀に、南ネーデルラントで高まります。その運動の中心は、こうした女性たちとシトー会だったと言われています(フランシスコ会は13世紀半ばからこの地域に参入)。


はなはだ簡略な説明ですが、以上のことを踏まえて、僕は「敢えて」ネーデルラントの女性(というかワニーのマリ)が先駆だと位置づけました。
つまり、あれは僕の考えです。なので、人名解説メモのところには書きませんでした。


あと、ヴィテルボのローサの箇所で、ゲルフ(托鉢)とギベリン(ヴァルド・フミリアーティ)の対立という記述ですが、
ゲルフ派は托鉢を、都市の支配階級たるギベリン派はヴァルド派・フミリアーティを保護していたということを言いたかったのです。
1230−1260年代のヴィテルボはかなり混乱を極めていて、都市はギベリンが支配していてゲルフ派としょっちゅう衝突を繰り返していたらしいです。僕もあまり詳しくありませんので、これ以上説明はし難いです。

僕が参考にしたのは、http://www.catholic-forum.com/saints/indexsnt.htm と、

Pryds , Darleen . , " Proclaming Sanctity through Proscribed Acts : The Case of Rose of Viterbo " , Women Preachers and Prophets through Two Millennia of Christianity , eds . Beverly Mayne Kienzle and Pamela J .Walker (Unversity California Press ,1998) , pp . 159 - 172 .

です。