『「伝統」とは何か』
- 作者: 大塚英志
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2004/10/06
- メディア: 新書
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なんだかんだ言って、彼の印税に貢献している。
内容は基本的に柳田民俗学批判。
というと何をいまさら、と思うか、今だからこそ、と思うか。
柳田民俗学批判といえば、村井紀や小熊英二の研究を読んで、一気に柳田嫌い&民俗学嫌いになった自分としては、
これ以上批判することはあるのかと思っていました。
が、よく考えれば、その後の民俗学側からの反論などの動きも知らないので、そうした動向も踏まえて書いてくれているので有益でした。
確かに、歴史学ももろに国策に関与していたし、戦争に加担しないで済んだ学問は無かったにしても、
やはり柳田民俗学は無邪気すぎると思う。
「ロマンチック」過ぎるというか。
興味深いのが、ドイツの「伝統」製造組織の話。
ナチスのヒムラー管轄の機関、「祖国の遺産」なる団体について。
実はこの団体の下部組織みたいな形で法制史研究が組み込まれているということ。
だからドイツ国制史・法制史畑の人間に「おっかない人」が多いのかなと、飛躍した印象を抱いてしまったり。
で、この「祖国の遺産」と当時の日本の一部の官僚と繋がりがあって、柳田もこのパイプ経由で何らかの知識を得ていただろうという点。
日本のオカルトは大正末・昭和の初めあたりに一気に噴出しましたが、ドイツとのリンクの具体が見えて面白かった。
後は、柳田が占領下で社会科教科書作成に関与しているのも知らなかったので勉強になりました。
しかし、社会科は「おつかさん」を教えるべきだって、何だよそれ?
「国家」を失った「私」の拠り所が「おつかさん」て。
この本は、ひたすら柳田叩きをしているかといえばそうではなく、柳田が提示し、その後彼が放棄した(?)主張に、これからの可能性があることを示して終わっています。
それが「公民の民俗学」。「公民」という響きに違和感を感じますが、言っていることは「個」の確立によって成立する社会のこと。彼なりに公共性を模索したわけです。
ただ、この主張自体、特に目新しいものではないですし、彼の言う公共性を追求するならば、民俗学という形である必然性がどの程度あるのかというのもよく分かりませんでした。