SCHOLASTICUS LUGDUNENSIS ANNEX

SCHOLASTICUS LUGDUNENSIS 別館

『ラディカル・オーラル・ヒストリー‐オーストラリア先住民アボリジニの歴史実践‐』



遅ればせながら読み終わる。


目茶目茶ショックな作品。


一見すると、歴史人類学系の研究か、記憶がらみの研究かと思ってしまうが、とんでもない。

サバルタンは語れないのか、歴史学は科学なのか、歴史と文学が違わないんじゃないのか、といった、実は歴史学が今抱えている重大な問題に応え、というか、そこを突き抜けて見せたまさに「ラディカル」な歴史学研究。


語り口の軽さに騙されてはいけません。ちとナルっぽいかなというトーンが垣間見えることに気を使いすぎてもいけませぬ。
実に実に深く、かつ巧妙な文体・配置・仕掛けが施されているのですよ。


これが博士論文っていうのにショックだし、年が僕よりたったの3つしか違わないということにショックだし、
そして何よりも、これが氏の遺作となってしまったのがショック。


自分が漠と考えていたことをこうも上手く言われて、よくぞ言ってくれましたと同時に自分が言えなかったことに悔しさもあり、
自分の能力の足りなさを見せつけられて悔しくもあり、あまりの氏の早すぎる死がとてつもなく悔しく思ってしまったり。


この本が死のたった1ヶ月前に出来上がったこととか、一通り本文を読み終え、知的興奮を味わって辿りついたあとがきで、死を前にした氏のことばなんか読んでしまったら、思わず目頭熱くなってしまたりと、ちと普通の研究書を読んだ感覚とはちがった体験をさせられました。


日本語でこんな素晴らしい本に出会えたことは、やっぱり感謝。
英語版が早く出て広く世に読まれんことを。