SCHOLASTICUS LUGDUNENSIS ANNEX

SCHOLASTICUS LUGDUNENSIS 別館

『歴史書を読む‐『歴史十書』のテクスト科学‐』


日中、体調が優れず潰してしまったけど、夕方から昨日入手した論文をひたすら読了。
そして併せて以下の本も読み終わる。



メロヴィング期の第1級史料、トゥールのグレゴリウス『歴史十書』のテクストがもつ多層的な意味を簡明にかつスリリングに説いた上質の研究。


これまで、メロヴィング期の有益な情報ソースとしてのみ扱われる傾向の強かった『歴史十書』を、テクストそのものの精読によって、テクストの多層的構造、彼の執筆スタイルがもたらす彼の隠れた意図、世界観などへ広げていく。

氏はこのテクストの分析を通して、「間テクスト性」という文学理論の限界を示そうとしている。
この辺の議論のもって行き方が上手い。

この主張について、幾つかさらに検討を要する点が見受けられるので、これは良いネタを貰ったと。


佐藤先生といえば、日本ではまず間違いなく最も多く史料を読みこなしている人物であり(趣味は史料を読むことというくらい)、世界的に名を轟かせ、一目置かれるメロヴィング研究の第一人者ですが、これまでの勝手なイメージだと、メロヴィング期の所領明細などの写本を駆使した、主に 文書 document 史料畑の人と思っていました。が、叙述 narrative 史料の分析ももの凄くソリッドに読みこなすんだと実感。
短い本ですが、実力をまざまざと見せつけられた感じ。


時代を問わず、これから中世でナラティヴ史料を読もうとする人は、まず読んでおくべき1書であることは間違いないでしょう。