SCHOLASTICUS LUGDUNENSIS ANNEX

SCHOLASTICUS LUGDUNENSIS 別館

『怪帝ナポレオンIII世‐第二帝政全史‐』/『福音書=四つの物語』/『アウグスティヌス』


怪帝ナポレオン3世

怪帝ナポレオン3世


やっぱり面白かった。個人的に近代フランス史関係では日本で一番面白い本を書ける人だと思っているんですが、歴史学者じゃなく、フランス文学者というのが皮肉です。

真に実力ある文学者というのがいかほどのものかということになるんでしょうか。
イギリス史でも、一番面白いと思うのは高山宏富山太佳夫氏といずれも英文学者ばかり。
それに比べると独文学で面白い人ってぱっと思いつかないですね。

もちろん歴史学者でも面白いと思う人はいます。
フランス近代史だと谷川稔氏が個人的には一番好きかも。

イギリス近代史だと角山栄・川北稔氏などでしょうか。

ん?何か関西ばっかりだな。


「切れる」という点でいうなら他にいるんですが、面白い歴史書を書けるというと、それはまた別でしょう。


さて、本書はさすがに第二帝政をずっと面白くしようとし頑張って来た著者だけあってその本領が遺憾なく発揮されています。
歴史学の本は「面白」くないとダメだと思っていて、その「面白い」というのは、文章自体の巧みさ・歴史に対する読みの深さ・史料の読み方の深さというのが揃っているものが「面白い」歴史学研究の本だと勝ってに決めているわけです。

で、本書は見事に全部揃っている。

しかしこのナポレオン3世、フランスでも人気の無さで言ったらピカイチかもしれない人物ですが、こんなに面白い人物とは思いませんでした。

労働者の上に立つ皇帝という「皇帝民主主義」なんていうの真に奇怪な発想で、おとなりイギリスでも思いつかない考えでしょう。
そして、馬鹿かと見えて実はかなりの勉強家。
恐らく当時の君主の中で一番勉強していた人物ではないのか。

「怪」帝たるところが沢山あるんですが、クー・デタによる皇帝になるまでの政治的駆け引き、その陰謀家としての能力の高さ、強力な意志と計画の下に政治を断行する有能な治政者とは裏腹に、戦争・軍事に関してはまるっきり無能というのも奇怪過ぎる。

外交能力は高いと思うんですが、何であれほど戦下手なのか。
クリミア戦争で痛い目見たのに全く軍に対するテコ入れをしようとしない。
それなのにイタリア戦争、メキシコ戦争なんかを起こしては甚大な人的被害を作り出す。
そしてそのツケが普仏戦争での敗北と自身が捕虜になるという屈辱。

確かにナポレオンの栄光の溺れて軍人達が無能の集まりだったというのもあるし、普仏戦争の時の兵士・軍人達の無能っぷりを見たら、そりゃマッチョなプロイセンにやられるよなというのも分かりますけどね。

だって、前線なのに武器も食料も整っていない、おまけに兵士は釣に行くわ愛人連れてきてよろしくやってるわで、ナポレオン3世が前線に来て絶望するのもよく分かる。

指揮系統も滅茶苦茶で、皇妃ウージェニーがパリからアホな命令を送ってくるし、これじゃ勝てる戦も全部負けるっちゅう話です。
性質の悪いコメディみたいなもんです。


しかしこれだけの分量の本が3000円切るという値段も素晴らしい。
読み物兼研究書ではありますが、研究書もこれくらいの値段でどんどん出して欲しい所です。


福音書=四つの物語 講談社選書メチエ (304)

福音書=四つの物語 講談社選書メチエ (304)


何ていうか、突っ込みどころが満載な本でした。
福音書解説としては素晴らしいのですが、初めに4福音書ありきという雰囲気がどうも馴染めませんでした。
著者の他の研究を読んでいないので、そちらで僕の疑問が解けるのかもしれませんが。
それと著者がプロテスタント神学者で、想定読者も恐らくクリスチャンにしているからだと思いますが、そうでない人にとっては「そんなこと思うか?」というような記述が目に付いて、それも馴染めませんでした。
あと、文体自体も馴染めない。何かくどい。

例えば、4福音書は組み合わせて読まないといけない、何ていう発想は取りあえず僕には無い。
逆にどの福音書を読んでも同じという発想も無いですが。

「貧しい」とは果たして今日的な意味での「貧」なのか、「物語」というのも現代の我々が捉えるような意味で取っていいのかとか、など色々他にも疑問符が一杯あるのですがやめておきます。

色々有益な指摘も沢山あって良かったんですが、もうちょっと判断保留にしたいです。



アウグスティヌス (講談社学術文庫)

アウグスティヌス (講談社学術文庫)


かなりキリスト教徒的アウグスティヌス研究なんですが、彼の生涯と著作の概要を掴むには便利な本。
ここから本格的なアウグスティヌス研究に進めばいいのではないでしょうか。