SCHOLASTICUS LUGDUNENSIS ANNEX

SCHOLASTICUS LUGDUNENSIS 別館

20世紀ドイツ中世史学の金字塔6冊


アメリカの中世史研究が活況を呈しているなどと言われている昨今、そのアメリカ中世史研究に多大な影響を与えたと目されるのが20世紀初頭のドイツ中世史研究なんだそうで。もちろん、フランス中世史研究も相応に影響を与えていますが、今回は全く専門外のドイツ中世史の古典について触れてみようかと。


さて、その金字塔6冊とはなんぞや。



  • Ernst Kantorowicz, Kaiser Friedrich der Zweit, 2Bds (Berlin, 1927).

Kaiser Friedrich der Zweite. Hauptband

Kaiser Friedrich der Zweite. Hauptband


英訳:
Frederick the Second, 1194-1250 (London, 1957).

  • Herbert Grundmann, Religöse Bewegungen im Mittelalter: Untersuchungen über die geschichtlichen Zusammenhänge zwischen der Ketzerei, den Bettelorden und der religiösen Frauenbewegung im 12. Und 13. Jahrhundert und über die geschichtlichen Grundlagen der deutschen Mystik (Berlin,1935).

Religioese Bewegungen im Mittelalter

Religioese Bewegungen im Mittelalter


英訳:

Religious Movements in the Middle Ages

Religious Movements in the Middle Ages


  • Carl Erdmann, Die Entstehung des Kreuzzugsgedankens (Stuttgart, 1935).


英訳:

The Origin of the Idea of Crusade

The Origin of the Idea of Crusade


  • Gerd Tellenbach, Libertas: Kirche und Weltordnung im Zeitalter des Investiturstreits (Leipzig, 1936).

Libertas: Kirche Und Weltordnung Im Zeitalter Des Investiturstreites

Libertas: Kirche Und Weltordnung Im Zeitalter Des Investiturstreites


英訳:

Church, State and Christian Society at the Time of the Investiture Contest

Church, State and Christian Society at the Time of the Investiture Contest


  • Otto Brunner, Land und Herrschaft: Grundfragen der territorialen Verfassungsgeschichte Sudostdeutschlands im Mittelalter (Baden bei Wien, 1939).


英訳:

Land and Lordship: Structures of Governance in Medieval Austria (Middle Ages Series)

Land and Lordship: Structures of Governance in Medieval Austria (Middle Ages Series)



主に1927−1939年間期なんですね。
こうやってみると、別にアメリカにだけ格別影響大だったものというわけではなく、大陸でもしかり、もちろん日本でも決定的なインパクトを与えた研究であることがわかります。


というかそもそも、近代歴史学の誕生自体、ドイツですからね。
しかも当時からドイツの中世史研究は、仕事の質・量ともにヨーロッパでも群を抜いていました。
たとえば、19世紀、フランス中世史学ぼうとするならドイツに留学しないといけないほどでした。
フランスが自前で中世史学を「離陸」させられたのは、第三共和政前半、ほぼ世紀転換期の頃だったはず。
背景には普仏戦争の敗北があるわけですね。


ちなみに、恥ずかしながら、この内3冊しか読んでません。エルトマンとグルントマン、テレンバッハ。
エルトマンの十字軍理念の研究は、特に近年、イギリスの十字軍研究の泰斗、ライリー・スミスが高く評価したことで、注目を集めたものですし、グルントマンの研究は、もちろん中世宗教運動研究の先鞭をつけた古典的名著。そしてテレンバッハといえば、いわずもがな、この叙任権闘争研究ですね。かつては、中世教会史をやる者ならば真っ先に読まれるべき書物として、半ば「聖典」扱いされていた印象があります。


他には、未読ですが、カントロヴィッチの作品は、ロマン主義的といわれているそうですが、フリードリヒ2世研究の魁として評価されていますし、ブルンナーのは、国制史、社会経済史の「聖典」の一つだったはず。


しかし翻って、この6冊のマスターピースのうち、邦訳されているのが未だに一つも無いということに改めて軽く驚きました。
オットー・ブルンナー、エルンスト・カントロヴィッチ、ヘルベルト・グルントマンについては邦訳ありますが、いずれもここで取り上げた著作ではありませんし。



ちなみに彼らの著作で邦訳があるのはこちら。

カントロヴィッチ

王の二つの身体〈上〉 (ちくま学芸文庫)

王の二つの身体〈上〉 (ちくま学芸文庫)

王の二つの身体〈下〉 (ちくま学芸文庫)

王の二つの身体〈下〉 (ちくま学芸文庫)

祖国のために死ぬこと

祖国のために死ぬこと


グルントマン

中世異端史 (歴史学叢書)

中世異端史 (歴史学叢書)


ブルンナー

ヨーロッパ―その歴史と精神

ヨーロッパ―その歴史と精神



西洋中世史の古典って結構邦訳されているようで、実は意外にまだまだ足りないんだよね、などと昔同僚と話したことを思い出しました。